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2023年 リンツ美術工芸大学交換留学体験記 #2 ヨーロッパ周辺のアートシーン / 現地の学生やアーティストの活動

石塚隆(博士前期課程2年)

はじめに

こんにちは、IAMAS修士2年、石塚隆(いしづかりゅう)です。
この連載では、IAMASの交換留学制度を利用し、2023年4月から7月にかけての3ヶ月間、オーストリアのリンツ美術工芸大学(Kunstuniversit?t Linz)での留学経験に基づく乐动体育_乐动体育app-滚球|平台を掲載します。この連載を通じて、留学先の大学についてや、現地の学生やアーティストの活動、ヨーロッパのアートシーンなどについて共有していきます。

#1 Interface Culturesの成り立ちとIAMASとの関係 / 現地の授業の様子について
#2 ヨーロッパ周辺のアートシーン / 現地の学生やアーティストの活動
#3 自身の研究内容 / 帰国後の展示について

今回は「#2 ヨーロッパ周辺のアートシーン / 現地の学生やアーティストの活動」についてご紹介します。


目次


ヨーロッパのアートシーン(メディアセンターとアートフェア)

ヨーロッパには数多くのアートシーンが存在しますが、中でも特に注目すべき場所として、代表的なメディアアートセンターのArs Electronica Center(オーストリア)、ZKM Media Center(ドイツ)、世界有数のアートフェアであるArt Basel(スイス)を挙げることができます。これらの場所は、メディアアートや現代アートの中心地として、国内外から様々なアーティストや研究者が活動し、毎年多くの観客が訪れています。


Ars Electronica Center

Ars Electronica Center(アルス?エレクトロニカ?センター)とは、オーストリアのリンツ市を拠点にしている世界的なメディアアートセンターです。1996年に開設されてから40年以上にわたり、先端テクノロジーがもたらす新しい創造性や社会の未来像に焦点を当て、アートとテクノロジー、そして社会を結びつける独自の活動を展開しています。
リンツのメインストリートから橋を渡った先にある、街の風景の中でも一際目立つ建物がアルスセンターです。その隣には「CCBT(シビック?クリエイティブ?ベース東京)」のディレクターを務める小川秀明氏が共同代表として率いる「アルス?エレクトロニカ?フューチャーラボ」(Ars Electronica Futurelab)が地下に併設されています。
ラボの周辺は普段から街に住む人たちが集まり、お酒を飲んだり音楽を聴いて楽しむような地域の人にとっての交流の場にもなっていて、私もそこで小川さんはじめ色々な方と出会いました。

Ars Electronica Center(オーストリア/リンツ)は夜にライトアップされ、近くのQRコードからアプリで自分で色を変えたり文章を表示させることができます。
アルス?エレクトロニカ?センターのテーマと展示について

近年のアルス?エレクトロニカ?センターの展示は、現在の社会的?技術的トレンドに深く根ざしたものとなっています。例えば、「There Is No Planet B」のテーマでは、気候変動に関連した作品が展示され、地球の持続可能性や環境問題について考えるきっかけが作られています。また、「Understanding AI」のテーマでは、1フロアを全てAI関連の作品で埋め尽くしていて、映像やインタラクションを通じてAIの面白さやその仕組みを直感的に理解する体験ができます。他にも「AI x Music」というテーマなど、アルスセンターはAIの可能性や影響を探求した展示を数多く行っており、アートセンターでありつつ、一方では研究施設としては科学館のような展示の印象を受けました。

「Neural Network Training」画像認識のプロセスが全て画像として表示されている様子
Shinseungback Kimyonghun「Nonfacial Portrait」 (2018)/AIによって人間と判断されないようなポートレートを描いた作品
アルス?エレクトロニカの歴史と役割

1979年に電子音楽のフェスティバルとしてスタートしたArs Electronica(アルス?エレクトロニカ)は、今日ではメディアアートの祭典として世界的な評価を受けています。このフェスティバルは、年に1度アート、テクノロジー、社会の交差点での出会いの場として、世界中から多くの参加者が集います。展示だけでなく、カンファレンスやパフォーマンスなど多岐にわたる活動が行われるこのイベントは、リンツ市内のさまざまなエリアや建物で開催されます。

さらに、アルス?エレクトロニカは、周辺の大学などとも連携しながら街全体でイベントを作り上げており、それが同時に教育や街おこしとしても機能しています。このように、現代の課題、例えば気候変動やAIによる社会の影響などに対して、アートが重要な役割を果たしていることを示し、最先端のテクノロジーとアートの融合を通じて、新しい視点や問いかけを提供する場として、多くの人々に愛されています。



The ZKM | Center for Art and Media Karlsruhe

今回私が一番紹介したいメディアアートセンターが、通称ZKMです。みなさんがヨーロッパに行った際はこの場所に行くことを強くお勧めしたいです。
The ZKM | Center for Art and Media Karlsruhe(ZKMメディアセンター)は、ドイツのカールスルーエに位置し、メディアアートと現代美術の研究所?美術館として、一般に「ZKM」として知られています。ナチス時代の兵器工場を再利用し、1997年に正式に開館したZKMは、単なるメディアアートの美術館としてだけではなく、研究施設としてあらゆる情報技術や芸術の研究も行われており、「エレクトロニック?バウハウス」あるいは「デジタル?バウハウス」と呼ばれることもあります。その活動は、併設するカールスルーエ造形大学とも密接な関係性があり、その学生たちがZKMの施設内で制作活動を行う姿も見受けられました。



1枚目:The ZKM(ドイツ, カールスルーエ)/アルス?エレクトロニカ?センターと同時期に開設されたこともあって、どことなく外見が似ています
2枚目:ZKMのラウンジの様子/中にはカフェや図書館なども併設されています
3枚目:展示場所までの通路/併設している大学の施設内を通ります

ZKMは、古典芸術をデジタル時代に継承するというミッションのもと、絵画、写真、彫刻などの空間芸術や映画、ビデオ、メディアアート、音楽などの時間芸術を幅広く扱っています。
今回は私がヨーロッパ滞在期間で最も影響を受けたと言えるZKMの展示「Renaissance 3.0(ルネサンス3.0)」を紹介します。

ZKMの企画展「Renaissance 3.0」について

企画展「Renaissance 3.0(ルネサンス3.0)」のテーマは生物化学から遺伝子工学、情報デザイン、神経科学、コンピューティング、ゲームカルチャーに至るまでの幅広い分野に及び、インタラクティブなアートや映像作品、バイオアートなどの作品が様々なメディアを通して展示されています。
この展示はアートにとどまらず、”情報”に焦点をあてており、レオナルド?ダヴィンチから始まり、コンピュータの基礎を作ったアラン?チューリングやジョン?フォン?ノイマン、”情報理論の父”クロード?シャノン、インターネットやハイパーテキスト、GUIの重要人物のダグラス?エンゲルバート、パーソナルコンピュータや70年代の”ダイナブック構想”で知られるアラン?ケイ、Linuxやgitをはじめコンピューティング領域における現在のオープンソースマインドを作ったリーナス?トーバルズなど、コンピュータ史やメディア技術史を語る上では欠かせない中心的な人物たちの偉業が網羅され、それらが如何にアート、建築、遺伝子、生物などと結びつきながら現代へと繋がっているのかを探ります。



情報科学(デジタルツール)の歴史年表(828年?2022年まで)

ZKMの位置付けとアルス?エレクトロニカ?センターとの違い

ZKMの重要なポイントは、あらゆる分野をつなぐ根本として”アート”を位置づけているというアプローチであり、それはアートにしかできない分野横断的な、独特の価値と役割を持っています。
一方のアルス?エレクトロニカ?センターは、先ほども述べたように現在はAI (Deep Learning) や気候変動といった特定のトピックに焦点を当て、先端的な技術の動向や、それらがもたらす社会への影響が強調された展示を行っています。この点で、アルスセンターは科学館的な性格をもつのに対し、ZKMはその核として「アート」という要素をより強く持ち、アートを軸として技術や文化や生命といったあらゆる分野を横断するような展示や研究活動を行っていることが、両施設の最も大きな違いといえるでしょう。

MITメディアラボ創設者のニコラス?ネグロポンテの文章とクロード?シャノンらの写真



Art Basel

Art Basel(アート?バーゼル)は、毎年6月にスイスのバーゼルで開催される国際的なアートイベントであり、アートフェアとしての側面を持ちつつ、現代アートの最新トレンドを知る場として世界中から多くのギャラリスト、アーティスト、コレクターが集まります。このフェアは1970年にスタートし、5月は香港、6月はバーゼル、12月はマイアミ?ビーチ、2022年からは10月にパリでも開催されており、毎年規模を拡大して話題を呼ぶアートフェアのため、アート?バーゼル好きな人たちは毎年 ”香港→バーゼル→パリ→マイアミ” と大移動をするそうです。


1枚目:アート?バーゼルの会場の様子(スイス/バーゼル)
2枚目:アート?バーゼルのメイン会場エントランス(スイス/バーゼル)

アートフェアは、様々なギャラリーが集まって作品を展示?販売する一種の見本市のようなもので、アート?バーゼルでは4,000を超える応募の中から選ばれた約200のギャラリーが出展されます。この出展のためには、数百万円に及ぶ出展料や大きな作品の運搬料など、膨大なコストがかかることも珍しくなく、世界中のビッグギャラリーでも毎年赤字になるような相当なハードルですが、1日あたりで数十億円単位での取引が行われることもあると言われています。
アートの商業的な力をとても強く感じる一方で、ここは単に商業的な場所だけでなく、その分世界中の人に作品やギャラリーを知ってもらえる機会となるのに加え、情報交換の場や社交の場としても重要なイベントになっています。



1枚目:会場内の展示ホール。選出された作品が大きなホールのなかで展示されています
2枚目、3枚目:ホール内の展示の様子

さらに特筆すべきは、アート?バーゼルの開催を契機として、バーゼルの地域全体で多くの展覧会が同時に開催されることです。これにより、地域の美術館やギャラリーはもちろんのこと、自然史博物館や歴史的に重要な場所である教会、聖堂、修道院などでも作品が展示されるようになります。これにより、訪れた人々はアートを鑑賞するだけでなく、バーゼルという場所の歴史や文化にも深く触れることができます。
また周辺地域に暮らす人が日常的に訪れる教会のなかでアートに出会うなど、地域の人と生活と文化と観光客との間に緩やかなコミュニケーションが成立していることも、このイベントの魅力の一つと言えるでしょう。

バーゼル大聖堂の広場に展示された作品の様子

街を大きく隔てるライン川はあめ玉のようにとても綺麗に澄んだエメラルド色をしていて、街の人は川で泳いだり、川沿いでお酒を飲んで街を眺めているのが印象的でした。
ヨーロッパを国をまたがって流れるドナウ川やライン川などの大きな川はスイスの山脈が水源になっているらしく、スイスは水がとても綺麗で豊かな国でした。

 

リンツ美大の学生や現地アーティストの活動

リンツ美術工芸大学には多彩なバックグラウンドを持つ学生たちが集まっています。ここでは、IAMASや日本の学生の活動と照らし合わせながら、リンツ美大の学生や現地のアーティストたちの活動について紹介したいと思います。

リンツ美大の”Ars Electronica Project”について

リンツ美大のカリキュラムの一環として、アルス?エレクトロニカ?フェスティバルに参加するための特別なプロジェクトがあります。それが「Ars Electronica Project」です。
このプロジェクトは、先にあげたアルス?エレクトロニカ?フェスティバルのなかでリンツ美大は展示の枠を持っていて、学生たちがそこで作品を展示することができるというプロジェクトです。これは、リンツ美大の学生たちにとって、非常に貴重な機会となっています。
プロジェクトでは学生は自らのプロジェクトや制作進捗についてのプレゼンテーションを定期的に行います。このプレゼンテーションを通じて、学生同士のフィードバックや学内審査が行われ、フェスティバルで展示するためのメンバーや作品が選ばれます。

そして、この「Ars Electronica Project」への参加は、フェスティバルの開催地であるリンツに位置する美大であるための特権とも言えます。リンツ美大の学生たちにとって、このような国際的なステージでの展示の機会は、彼らのキャリアや将来における大きなステップとなるため、学生にとってとても重要なプロジェクトになっています。

「Ars Electronica Project」でのプレゼンテーションの様子

展示活動とギャラリーとの繋がり

リンツの学生たちは、学内外での展示活動に非常に積極的です。学生に関わらず毎週のように小規模ながらも展示が開催されており、展示のオープニングパーティではウェルカムドリンクや軽食が振る舞われ、それを楽しみに周辺の人々が訪れます。そのため、展示のオープニングパーティの噂を聞きつけると学生たちはお酒を求めて展示を見に行きます。
こういった文化は自分にとってはとても新鮮でした。作品展示をするというハードルが低く、そこで展示経験を積んだり色々な人との交流が生まれているのはとても良い文化だと思います。
前回の記事でも触れたように、リンツ美大には学外のギャラリーや施設を紹介する授業があるため、学生たちはそういった場からギャラリーオーナーやアーティストとのネットワークを築き、その機会を活用して展示に繋がっていくのだと思います。


1枚目:学内のギャラリーでの展示の様子。みなワイングラスを持って展示の説明を聞いています
2枚目:リンツ市内のギャラリーでの展示の様子

アーティスト?イン?レジデンス(滞在制作)や留学の取り組み

特にInterface Culturesの学生の中には、多くの留学生が含まれていますが、彼らはリンツ美大の制度を通じて、交換留学やアーティスト?イン?レジデンス(AIR)に応募し、また別の環境で制作活動を行っています。
現地で出会った日本人アーティストのノガミカツキさんやYuma YanagisawaさんはInterface Culturesの学生で、制作環境を得るために学校に所属していて、それぞれパリやベルリンなどに交換留学を予定していました。
Interface Culturesの学生で、特に日本人学生の中には、留学を滞在制作の機会と捉えている者が多い印象を受けました。彼らは、制作のための環境を求めて留学やAIRへの応募を積極的に行っています。この背景には、学生として資金面でのサポートや発表の機会を得ることができる、という側面があります。
Interface Culturesの学生たちは2年で卒業する、という考え自体がそこまで強くなく、他の滞在制作の活動や展示機会を得るために学校に来ていて、その活動によって卒業の計画が変わるという印象があります。

IAMASの学生との違い

IAMASの学生たちの中には、外部展示や滞在制作よりもアートコンペティションを重視する傾向があると思います。普段からアートコンペの締切を意識していてそれに向けて作品を作ったり、過去に作った作品をコンペに応募して、それを通して展示機会を得ている印象があります。これは、Interface Culturesの学生との違いとして挙げられるポイントの一つです。
実際これらの違いについてはヨーロッパの学費の安さや教育制度が充実している、という点も大いに関係していると感じます。Interface CulturesはEU圏内であれば学費はかからないですし、圏外でも日本に比べてとても安いため、また別の場所に留学や滞在制作をしたりできる、という利点があります。
ただ、制作を続けるための環境を探し続けることや、学校の制度や機会を十分に活用しながら個々人で全く異なる挑戦をしていることはとても参考になりました。そのような学びから、自分自身もIAMASでの活動を滞在制作と捉えながら、卒業後も制作を続けるための環境を自ら作っていく活動はとても重要だと実感しました。

 

まとめ

今回は前半にヨーロッパのアートシーンを紹介し、後半は学生やアーティストの活動を紹介してきました。ヨーロッパにはその歴史や文化の背景を持つ多様で稀有なアート施設やイベントが各地に存在しています。リンツ美大の学生やアーティストたちの活動も、各地に特異な環境がある中で自分に合った場所を選び、それぞれ個性的な活動をしていることが伺えます。
次回は、私自身の研究についてや、留学やヨーロッパのアートシーンを経験して帰国した後の展示活動について紹介します。